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エクアドル日記(2005年8月)
8月20日(土) 晴れ(クエンカ→ラタクンガ→スンバウア→キロトア)

キロトア湖

フォルクローレバンド大乱入

朝6時クエンカのテルミナル発のバスに乗ってラタクンガへ。バスはカニャル経由でのろのろと走り、ラタクンガに着いたのは8時間後の午後2時。昼飯はラタクンガの中華料理屋で、魚を揚げたのを野菜と一緒に炒めた「魚野菜炒め」と白飯。
その後ラタクンガからケベド行きのバスに乗る。ラタクンガ⇒スンバウア間の道は超風景だった。なだらかな斜面を持つ雄大なアンデスの山々の間をクネクネ道が通る。標高4000m近くまで来ると、緑は少なくなり、茶色が支配的になる。時々村落を通り過ぎる。2時間弱で午後4時半ごろ山間の小さな街スンバウアに到着。

スンバウアからカミオネータ(ピックアップトラック)に乗って、サボテンと枯草の草っぱら、そして時々現れるゴツゴツした岩山を見ながら20分ほど走る。キロトアは、寒村という言葉がぴったりの色褪せた、殺風景な村だった。雑貨屋がいくつか、オスタルが数件。店らしい店はそれだけ。そして数十戸の家がポツポツと建っている。そういえばここへ来るまでのカミオネータの中で、運転手の若者が嘆いていた。
「キロトアでは、時計だって修理できないから、わざわざラタクンガまで持っていかないといけないんですよ。」

村の入り口にいちばん近いオスタルにチェックインする。夕食、朝食付きで8ドル。トイレ、シャワーは共同。

ロンリープラネットによれば、この村の標高はおよそ3850m。8月の夕暮れ前のキロトアは、冷気に包まれていた。日本の4分の3の国土面積ながら、エクアドルの気候の多様さには驚かされる。コスタ(太平洋岸低地)やオリエンテ(東部アマゾン流域地方)のようにまさに赤道直下の酷暑もあれば、シエラ(アンデス山岳地方)はこんな寒さである。
日本でも北海道は寒く沖縄は暑いけれども、それは南北に数千キロも遠く離れているからである。だがここエクアドルでは、水平直線距離では近い場所が、全く違った気候となる。南北方向、水平距離の乖離ではなく、垂直方向、空へ向っての乖離である。海抜ゼロレベルから垂直方向に上ると、わずか4キロ(4000m)でとんでもない寒気と薄酸素が展開している。

見たところ数十戸しかないと思われる村の住民は、インディヘナの人がほとんどである。だが、ここはキロトア湖という目玉を持つ観光地だけあって、彼らはシャイでもなければ食うや食わずの貧乏でもない。彼らは人懐っこく、道ですれ違えば笑顔で挨拶してくる。僕が思うに、彼らは観光客慣れしていて、観光地の住民の鉄則−観光客に愛想を振りまく−を心得ている賢い住民なのだ。ここの観光地としての評判を落とさないような配慮を知っているのである。なるほど、あたりには若い白人観光客どもの姿がウロウロしている。

夕暮れの空を見上げると、雲が近い。アンデスを旅すると、雲がすぐ頭上を流れていくのをよく目撃する。それほど”高い”ところにいるのである。

午後6時半、日はすぐそこの山際に沈んだ。夕食は、オスタル母屋から歩いて15歩離れたところにある、オスタル経営のレストランでとる。真ん中に大きなストーブを配置した中は、山小屋風の木造りで壁には民芸手工芸品などを飾ってありなかなか趣がある。上にやかんや鍋の載ったストーブを囲んで木のテーブルと木のベンチが並んでいる。食堂の奥には、厨房がある。
予想通り食堂には白人どもが30人近く蠢いていた。しばらく奴等を観察する。白人はやはり鈍い。ストーブを焚くような寒さなのに平気で半ズボンの奴がいる。奴等に混じって簡素な夕食を食っていると、フォルクローレのジモティーバンドが入ってきて演奏を始めた。編成はケーナ2、チャランゴ1、ギター1、太鼓1、ギーギーいう打楽器1、である、しばらくして盛り上がってくるとストーブの周りのスペースで踊り出す奴がいて、標高3850mの狭い山小屋はたちまちバイレ(ダンスのこと)会場と化す。その後、小屋の中にいる全員にカネラッソ(注)が振舞われた。白人どもはどうやら団体ツアー客らしく、英語とスペイン語ができるガイドの若者が、全員に向って英語でカネラッソの何たるかを説明している。1時間ほどで僕は小屋を出て部屋に戻った。オスタルの部屋もまた、村の様子に似て殺風景だ。ベッドが一つだけ、その他には何もない。正面の壁についている窓が風でガタガタ、ピューッと鳴っている。

キロトアは風が妙だ。僕が行った8月下旬のこの日の夕方、外は身を削るような冷風が吹いていた。だけど、それはあるとき突然止んで、急に凪の状態になる。風が完全にゼロになるのだ。そして数分後、再び強風がどこからともなくやってきて、ピューと吹き始めるのである。ディジタル風。0か1か。強く吹くか全く止むか。中間がない。外にいる時は直にこれを体感することになる。皮膚を突き刺すような寒風が吹いている時と凪時との体感温度の違い。夜の部屋の中では、耳がこの風を感じる。今までずっと遠くの方で鳴っていた、ピューという耳障りな音が突然なくなり、思いがけない静寂が訪れる。暖房器具など何もない部屋の中で、布団と毛布にくるまって夜の寒さに震えながら、このざわめきと静寂の奇妙な繰り返しを聞いているうちに、いつの間にか眠りに落ちた。

キロトア湖の少年

(注)カネラッソは、祭りや祝いの時に飲む酒で、(おそらく)サトウキビの蒸留酒に果汁とシナモンが混ぜてある、フルーティだが結構強い酒である。通常、ホットで飲む。


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