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病院
2001年10月
私は、人生で一度だけ入院したことがある。その時に感じたことを書いてみたい。(「何を今さら。」という人も多いでしょうが、そこはご了承ください。)
私が入院したのは、高校2年の秋。「網膜剥離(もうまくはくり)」という、よくボクサーがなる眼の病気で入院し、手術を受け、2週間ほど入院し、その後2週間ほど自宅静養し、計1ヶ月ほど高校を休んだ。
私にとって、それまで「病院」という所は、全く縁のない場所であった。失明の危険性もあるので、入院・即手術しなければならないことが決まった時、正直言って「何で俺がこんな目に合うんだ?」と思った。それまで全く身体に悪いところはなかったし、まさに青天のへきれきであった。友達はみんなピンピンしてんのに、自分一人だけが不幸を背負ってしまったかのような不公平さを感じていた。
手術は無事終了したが、患部を固定するため、丸2日間ほどは、全くベッドから動けないままに過ごした。そして、ようやく術後3日目くらいに動くことが許された。私は、この後1週間ほど入院することになる。
私が入院したのは、大学病院であり、様々な科を抱える総合病院である。内科、外科、耳鼻科、小児科、眼科等々。手術後、歩けるようになってから、私は好奇心から病院の中を歩き回り、様々な科の入院患者を見る機会があった。それは、それまで私が全く知らない世界であった。
眼科の入院患者は、通常自力で歩き回れるので、病室にはそんなに暗いムードはない。緑内障、白内障と色々な病気の人がいたが、みんなそれほど悲壮感はなく、病室でも結構会話があり、病院の中では明るい病棟だと感じた。
外科は、見た目痛そうな人が多い。つまり、足を骨折してベッドの上で足を吊って動けない人とか、腕を吊っている人とか、「包帯ぐるぐる巻き」といった感じだ。しかし、足を骨折している人でも、しばらくすれば松葉杖で歩けるようになる。病棟の雰囲気はそれほど暗くない。
これに対して、内科。内科の入院患者は、年配の人が多く、寝たきりという感じの人が少なくない。さらに、病室や廊下には、重厚な治療機器が所狭しと並んでいて、非常に重苦しい雰囲気の病棟だ。病室内も、私が見た限り会話も少なく、みんな痛みをこらえて寝ている、といった感じだ。その病室には、重く、どんよりとした空気が流れていた。
また、病院では、入院している子供たちも結構見かけた。小学生や、それ以下の子供が数多くいるのだ。
私は、こうして入院して病院の現実を目の当たりにして、『健康』がいかに大切なものであるか、失ってから初めて気づくとともに、「2週間もすれば退院できる自分は、全然不幸じゃない、重い病気で苦しんでいる人達に比べ、いかに幸せであるか」と感じた。
普段健康な人々は、その状態が当然だと思って過ごしている。そのまま病気をしないで一生を終えるのは、幸福なことではあるが、ある意味非常に不幸なことかもしれない。というのは、一度も身体を壊さないということは、身体が悪くて普通の人と同様な生活を送れない人の気持ちが分からない、ということである。失ってから初めて気づく、ことは人生には多い。一度でも入院した経験があれば、病気で好きな事が出来ない状態の人や、出来ないままこの世を去っていく人すらいる、ということを知ることができ、そういう人達の気持ちを少なからず理解することが出来る。(治る病気の場合は)そういう人達に比べれば、自分はかなり幸せな方だ、と気づく。自分よりはるかに若い子供が、学校にも行けず、友達とも遊べないまま、入院して病気で苦しんでいるのだ。さらに言えば、身体障害者の人の苦労を知れば、一度身体を壊して入院したくらいで、「自分は不幸だ」などと夢にも考えないであろう。
そういう現実を知らない人は、ともすれば自分に起こったちょっとしたつらい出来事で、「自分は不幸だ」とすぐに思うかもしれない。 何かつらいことがあった時はこう考えてみよう。
「こんなことは全くちっぽけなことだ。自分より困難な状況にある人間は、世界中に数知れずいるのだから。こんなことは何とかなるさ。」
逆境に陥ることは、何かを学ぶチャンスでもある。そういう状況になってみなければ分からないことが世の中たくさんあるのだ。また、世の中には、自分の知らない世界で、とんでもない苦労をしている人が無数にいる。そういう世界や人々を、少しでも多く知る努力をすることが、自分が人間として成長するために非常に大事なことだと思う。
P.S.
(2001年10月)アフガニスタンで今起こっている出来事も、自分とは関係のない、遠い国の出来事・・・と考えている日本人が多いだろう。だが、戦争で自分の故郷を追われるアフガニスタンの難民の人達のことを考えれば、遠く日本で安穏としていられる自分が、いかに幸せな存在であるかが分かる。
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