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雪
2002年1月
仙台の冬。週末、いつものように朝3時まで飲んでタクシーで家に帰る。夜半から降り出した雪がすでに積もっている。
タクシーを降りて、家まで歩く。とたんに何も聞こえなくなる。
深夜の住宅街に降りしきる雪。すべての音が消失してしまった。ただ深々と白く密度の濃い雪が斜めに降り注いでくる。
街灯を見上げると、雪が幻想的にシルエットを流して絶え間なく落ちてくる。
もう雪は10センチ近く積もっただろうか。道も、家も、すべての物が白い覆いの下に隠れた。
見慣れた街は、雪によって完全に変貌した。 周りのすべてが白。雪だけが暗灰色にくすんだ空から音もなく落ちてくる。
雪以外に何も動いているものはない。
音もなく動きもない。静寂が支配する世界。だけど、冷淡さはない。白く光る世界から、暖かい何かを感じる。
優しい雪。
それは、ただ僕の心を映しているだけなのだろうか。
雪が降るとどうして音がなくなってしまうんだろう?何でこんなに世界は静かなんだろう?
積もった雪が、その中から出てくるべき音をすべて吸収しているようだ。
いくら深夜とはいえ、雪が降っていない時は常に何かの物音を耳が聞いている。
だけど雪が深々と降り続く夜には、音が完全に消え去ってしまう。誰もこの世界にいなくなったような完全な静寂。
普段の生活でこんな静けさを感じることはない。
街灯の光をバックに降りしきる雪を見上げていると、心の奥底からとてつもなく暖かい何かが湧き上がってくるのを感じる。
何かが心の中に射してきたような。
何だろう、この充実感に似た感じは?
誰もいないナイターゲレンデの、幻想的な光と雪と闇に沈んだ山々の光景が記憶の淵から無意識に蘇ったのだろうか?
「生きていること」を実感する瞬間。
音のない雪の中で。
コンビニは、こんな雪の夜中でも煌々とした明かりをたたえて佇んでいる。だが、そこにも音は全くない。
暖かそうな扉の向こうの光は、夢の中の出来事のようにガラスの露のなかにもやがかかっている。
時が止まってしまったコンビニ。
もう、すべてのものは雪の中に埋もれた。すべてを包み込む白い夜に、一人いつまでも立ち尽くしている。周りには誰もいない。
雪だけが深々と降っている。
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