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エクアドル日記(2005年4月)
4月6日(水) 雨後晴れ後曇り

学校が終わってバスに乗っていると、一人のオヤジが俺に話しかけてきた。俺はいつものように一番後ろの席の左端に座っていたのだが、グラサンをかけて青いTシャツを着たそのオヤジは、テルミナルで前の扉から乗り込んできて、真っ直ぐに一番後ろの席に向かってきた。5席並んでいる一番後ろの座席は、左端の俺以外はすべて空席である。奴は、真ん中の席に腰を下ろした。俺が左端だから、俺の隣の隣の座席である。心理学上は、俺の席以外の4席が開いている場合、次に来た人は、俺から一番遠い席、つまり右端に座るのが、90%の確率であろう。

奴は、俺と話すつもりで俺の近くに座ったのである。まずグラサンをかけているところからして怪しさ800%だ。ここでは、グラサンをかけている奴などほとんどいない。
奴は、おもむろにバッグからキリストが磔になっている十字架像を取り出し、俺に見せながら言い始めた。長さ50cm程度の比較的でかい十字架だ。

「アミーゴ、これ見てよ、手彫りなんだ、ハンドメイド。このキリスト像、たったの50ドルにしとくよ、ニューヨークあたりだと200ドルはするシロモノだ。それがたったの50ドルだよ、すべて手彫り、モノが違う。」
時々英語を交えながら、グラサンを鼻の上に下げ、その裏から上目使いに直目で俺を見ながら語る。
外人を狙った物売りか・・・。ここはニューヨークじゃねぇ!
「俺はカトリックでもキリスト教徒でもねぇ。そんなものに全く興味はないんだ。」
奴は引き下がらない。
「君の宗教はなんだい?」
「仏教だ。」
「仏陀も作れるよ。このくらいの大きさで50ドル・・・。」
「そんなものに興味はネェ。俺は宗教なんか関係ねェんだ、分かったか。」
俺は不快感を露にして奴に言った。

バリ島に行った時に神の鳥ガルーダの木彫り像を1000円で売りつけようとした数々の物売りオヤジ達が思い出される。彼らは「センエン」という日本語をうわ言のように繰り返し繰り返し叫びながら俺たち日本人観光客に押し寄せてくる。1000円って、一体お前らの金でいくらだと思ってんだよ?だけどあの奴らの限りないしつこさを考察するに、以前に1000円くらいでポーンと何も考えずにあんなチャチな木彫り鳥を買った日本人のオヤジ、オババがいたんだろうなぁということは想像に難くない。奴等はもう味をしめているのだ。日本人なら絶対高値で買ってくれるというアホな認識を、アホな日本人の先人どもが奴らに植え付けてしまったのである。

少し強く言ったおかげで物売りオヤジは黙った。だがしばらくして再び話しかけてくる。
「君はどこの人?」
「俺は日本人だ。」
「あっ、中国人じゃなかったのか。僕は中国人の友達が多いんだ。そうか日本人か。トキオかい?新潟?」
俺は奴を無視して窓の外を眺める。だが奴はお構いなしだ。
「今日の新聞に、日本のニュースが乗ってたよ。電車の中で痴漢が多いんだろ、日本は?それで女性警官がおとりになって痴漢者を逮捕した、ってさ。ほら、これこれ。」
奴は怪しい手つきで自分の身体、胸の辺りを触りながら「痴漢」の説明をしている。俺は心の中で叫んだ。
やめてくれー、その手つき!!そして考える。ホントかよ、そんな記事が何でここの新聞に載るんだ?どうせこいつが何かの本で読んだことを受け売りしてるだけだろう。俺はボッタクリ物売りに対する警戒心もあって、猜疑心の固まりになる。

ライトアップしたサントドミンゴ教会(クエンカ)

さらに奴は続ける。
「日本は技術がすごいよな、トヨタ、ホンダ、LG、・・・。」
(おいおい、そりゃ韓国や!)
心の中で突っ込みを入れながら、生返事をする。
「あぁ。」
(『ウザったい』とはまさにこのことだな。悪徳物売りと愉快に会話を続けるほど俺は暇じゃネェ。)

俺のつれない態度を見ても、奴は話しかけるのを止めない。
「君は何年エクアドルに住んでるの?」
俺はバスの窓から外を見つめながら一言だけの生返事を繰り返す。
「1年と4ヶ月。」
「僕の友達の中国人は5年もここに住んでるんだ。」

そうこうしているうちに奴はセントロで降りた。最後、俺に握手を求めてくる。
「アミーゴ、また。ごきげんよう。」
俺も一応手を差し出して別れる。

変なオッチャンやなぁと思いつつ、バスを降りて車道を反対側に渡った奴を窓からしばらく見つめていた。くたびれた布バッグにキリスト像、グラサンにTシャツによれよれの綿パン。外人を狙った悪徳商人なのか、それともただ単に話好きの気さくなオッチャンなのか。随分奴をむげに扱ったな・・・。奴の姿を目で追いながら、なぜか奇妙な後味の悪さを感じていた。


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