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エクアドル日記(2005年4月)
4月11日(月) 曇り時々雨時々晴れ

エクアドル2度目の床屋ドキュメント
およそ1年前の4月8日、セマナサンタの聖木曜日に誓った通りに伸ばしてきた髪を、ついに今日、1年も過ぎたことだし、長くなりすぎてウザったくなったことだし、切ることにした。何しろ俺の髪はもう肩を通り越している。髪を1年間も伸ばし続けたのは、長い人生のうちで間違いなく始めての出来事である。

最近ここ3ヶ月ほどは、髪が長過ぎてうっとうしく、それに伴って髪を洗うのが面倒になり、洗髪はほぼ2日に1度となった。坊主頭の中学時代が終わり、髪を伸ばし始めた高校以来、基本的に毎日シャンプーを日課としてきた俺である。
最近髪が長くなってから、昔付き合ってた長髪の彼女のことをふいに思い出した。彼女はこんなことを言ってたっけ。
「私は2日に1度しか髪を洗わないよ。」
「えっ?(驚く俺)それって、普通じゃないよな?そんな話女から聞いたの初めてだぞ?」
「えっそう?結構女の子はそうだよ。長いと洗うの面倒くさいからね。2日に1回でいいのよ。」
「そんなもんかな・・・。」
だが、このような隔日洗髪の習慣を持つ女にはこれ以後出会っていない。確かに、自分で髪が長くなってみると、洗髪および乾髪が面倒クサイことこの上ない。なるほど、気持ち分かるわ〜と妙に納得する。ちなみに、この女の子とはすぐに別れてしまったが、この習慣が原因になったのではない。

さて、学校が終わった後、バスに乗りセントロへ向かう。同僚のレオナルドから教えてもらった、彼お勧めの床屋を探して歩き回るが、教えられた住所には床屋が見当たらない。近くの駄菓子屋のオバちゃんに聞くが、「知らないわね」との答え。去年と同じパターン。しばらく探し回る。床屋・美容室はたくさんあるが、レオナルドが俺に告げた名前の床屋がない。仕方なく今度は同僚のシルビアに教えてもらった床屋へ向かって歩く。その床屋は、セントロから歩いて10分ほど、巨大な公営墓地の裏手にあった。月曜の夕方6時。人通りの少ない通りのせいもあろうが、客は誰も入っていない。
(あれ、大丈夫かな?)
扉を開ける。
中にはワイシャツにネクタイ姿の初老の小柄なオジさんが待ち構えていた。内心、オジさんということでまたまた不安の影が頭をよぎるが、もう乗りかかった船である。むしろ、そこらへんの若い女美容師よりマシかもしれない。
「こんにちは。」

ヨーロッパ系オヤジ美容師・星一徹

俺は前回の時も持ってきた、1年以上前に撮った自分の写真をカバンから取り出し、オジさんに見せながら言う。
「こんな感じでお願いしたいんですが。バリカン使うと短くなりすぎるので、はさみでお願いできますか。」
オジさんは、じっと写真を見つめ、俺に目を移し、また写真に目を落としてから言った。
「お安い御用だ。」
こうして2度目のエクアドル床屋体験が始まった。
始めにオジさんに頼んで、切る前の姿を俺のデジカメで撮ってもらう。そしていよいよ戦闘開始。
例の床屋特有のクルクル回転椅子に座らされたが、奇妙なことにオジさんは俺を鏡と反対方向に向けて座らせ、そのまま切り始めた。普通床屋では、客は鏡の方を向いて座るものと相場が決まっている。なのに鏡と逆を向いたまま切られているのだ。
(これっておかしいよ、ね・・・?)
すなわち、自分がどのように切られているのか、途中経過が全く分からないのである。前回のこともあるし、これはなかなか心臓に悪い。だが俺は、そのままにしておいた。もうこのオジさんのセンスと経験と技術に任せるしかない。もうジタバタあーしろこーしろと言ってもしょうがない。彼の手綱さばき、いやハサミさばきに、俺の命運を託す。このオッチャンと心中や。
この美容師のオジさんは、小柄ながらヨーロッパ老紳士のような、ドイツ人哲学者のような厳しい顔つきをしており、一見頑固一徹に見える。ワイシャツにネクタイじゃなく、つなぎにハンマーでも持たせたら、街の鍛冶屋の親分みたいな風貌である。いや、戦前ヨーロッパの縫製工場の工場長といったところか。気難しそうな、話が分からなそうなオーラを発している。どこの国にも、頑固オヤジの典型相は存在する。
ならばこっちから話しかけていくか、とジャブを繰り出す。

戦闘終了後。おびただしい髪の毛の残骸

「もう1年も髪切ってないんですよ。」
「1年かい、そりゃ伸ばしたね。」
「ところで、水曜はパロあるんですかね?」
「あぁ、あるさ。」
「バスとか公共交通機関は通常通り走りますかね?」
「さぁどうだろうな。」
話してみると結構気さくな人だった。話がしばらく途切れると、ハサミを操りながらオジさんの方から聞いてきた。
「君はどこの国の人?」
「日本です。」
「クエンカはどうだい?」
「好きですよ。落ち着いていて。キトとかグアヤキルみたいに危なくないし。」

使用前

使用後

「クエンカでも最近は少しずつ犯罪が増えてきたけどな。昔はそれこそ何もなかった街だよ。」
クエンカについて話す時は、彼のクエンカ在住50年の風格がヒシヒシと感じられた。
でまぁ、俺の仕事の話とかここにきて何年になるとかいつ日本に戻るのかとかアスアイ州が君に給料払ってんのかとか一通りのお決まりのパターンを経て、突然クルクル椅子は鏡の方に向けられた。鏡を恐る恐る覗き込む。
前髪が横一線に揃えられた、短髪のおかっぱ少女のような顔が鏡の中にあった。あれっ、誰かに似てるな〜、などと内心思っていると、オジさんが先刻の写真を持って俺に説明を始めた。
「全体的にはこうで、もみ上げはこうで、後ろが、前が・・・。どうだい?」
よくよく写真と鏡を見比べると、ウム、全体の雰囲気は似てると言っていいだろう。俺は、まぁ前回よりは大分マシだなとちょっとホッとして、言った。
「いい感じだと思います。」
このオジさんは、この後頼まれもしないのに勝手にジェルなどを塗りたくったりはしなかった。小バサミで細かいところを最後の仕上げをして、それで終わりだった。このあたりも前回とは大分違う。
代金4ドルを払い、改めて鏡を覗き込む。「久々にさっぱりしたな。」と満足感が支配的に漂っている。長髪のうっとうしさが最近はかなり重荷だったことの裏返しでもあるだろう。
最後、オジさんの写真を撮らせてもらって、握手して別れた。
これでまたしばらくは床屋に行かなくて済みそうだ。


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