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インド旅行記
2003年1月・記
第1部 悪人天国・デリー
危機一髪
DAY-1(3)(2002/12/29)
5分くらい走ると、リクシャードライバーは、薄暗い道の入り口で車を止めた。ここがメインバザールの入り口だと言う。私が降りようとすると、奴は急にこんなことを言い始めた。
「メインバザールは夜10時までだから、ここには入れない。」
またかよまたかよまたかよ、お前らのウソにはもうコリゴリだ、と思いつつ、
「ここでいいよ。」
と金を払い、荷物を持って、かすかにネオンが見える商店街のような薄暗い道に入ろうとすると、別の男が近づいてきた。
「だめだ、メインバザールはもう閉まってる。」
と言って私の腕をつかんだ。すぐにこいつらはグルだと気づいた。「俺達がいいホテルを紹介してやる」っていう魂胆だろう。だいたい、安ホテルが集中するメインバザールが、10時以降に通行禁止になるはずがない。チェックインはいつでもできるのだ。私は、疲れていてイライラしていたこともあり、腕をつかまれた怒りから、声を荒げ、奴をどなりつけた。
「離せよ、てめぇ!(日本語)」
すると、その男は、どなられてムカついたらしく、何やらヒンディー語で叫んだ。私はそんなことお構いなしに、道を歩き始めた。20mくらい歩いた時、後ろから大声が聞こえてきた。
振り向くと、一人のまた別の男が、私に大声を上げながら突進してくる。そこからは、一瞬の出来事だった。
突進してきた男は、腕を上げ、振り向いた私の頭に、ちょうどラリアットのように腕をぶつけ、襲いかかってきた。私は奴に後頭部を強打され、前によろめいた。そしてその拍子に持っていた二つのバッグのうちの一つを落とした。襲いかかってきた男は、すぐさまその私のバッグを拾い上げ、もと来た方向に一目散に逃げ出した。
私は、旅先でモノを盗まれたことも、人に殴られたこともない。突然の暴行に、大きく気が動転したが、すぐに怒りで頭の中は真っ白になった。とにかく何としてもバッグを奪い返さねばならないと思った(そのバッグには、パスポートもお金も、大事なものは何一つ入っていなかったが)。私は大声を上げて奴を全速力で追いかけた。
「てめぇ、ふざけんなよ、待ちやがれ!!!!(もちろん日本語)」
強盗男は、私が追いかけてくるのを見て、必死の形相で逃げている。だが、奴が持っている私のバッグは結構重いので、それを抱えながらそんなに速くは走れない。「絶対に逃がさねぇ」と、こちらも鬼の形相で全速で走っていくと、みるみる両者の距離は縮まった。奴は私が追いかけてくるのに気をとられ、私の方ばかり見て、ロクに前を見ないで走っている。
とその時!
奴は道端にあったブロックにつまづいて、大きく転んだのだ。そして転がりながら私のバッグを手放した。すぐに追いついた私は、バッグを拾い上げ、回れ右をしてこれまた一目散に逃げた。強盗とケンカをするほど私も馬鹿ではない。
走りながら、冷静になってきて、恐怖感に再びとらわれた。
「奴ら追いかけてきやしないだろうか。」
何度も後ろを振り向きながら、全速力で走った。奴は追いかけては来なかった。
助けを求めるように、入り口が開いている建物に飛び込んだ。
「すみません。」
そこは、ホテルではないようだ。暗い通路を進んだ突き当りの事務所のような部屋に、一人の老人が座っていた。薄暗い部屋は、本が飛び出さんばかりに詰まった書棚で囲まれている。老人は、書類が山積みになった机の向こう側で、いすに座っている。長く白いヒゲを伸ばし、めがねをかけている。夜中、突然の来訪者に、驚いた様子もない。
「この近くに、ホテルはありませんか?」
「ホテル?そうか、ちょっと聞いてみよう。」
と言って受話器を取り、どこかに電話し始めた。
私は、もう誰も信用できなくなっていた。その薄暗い部屋の雰囲気と、ヒゲの「謎の老人」があいまって、そこがまるでサスペンス映画に出てくる怪しい場所のように思えてきた。映画の世界に迷い込んだような錯覚。
そして、すべての人間が悪人のような気がして、「やっぱり自分で探します、それじゃ。」と言ってそこを出た。異国の地で、助けてくれる人は誰もいない・・・。自分ですべて切り開かねば。
建物を出る時、強盗男が近くにいやしないか、外の様子を注意深く確認した後、再び走ってホテルを探し始めた。その通りの両側の建物を眺めてみると、ところどころ電光掲示のネオンが光っている建物がある。道は舗装されていない。
しばらくして、ホテルを見つけた。ホットシャワーのお湯が出ることを確認した後、泊まることを決めた。チェックインの手続きをしながらも、奴らが夜私の居場所を見つけて強盗しに来やしないか、このホテルの従業員も奴らとグルじゃねぇだろうなとか、しばらくは緊張していたが、時がたつにつれ、落ち着いてきた。どうやらもう追いかけては来ないようだ。
部屋に入り、ようやく正気に戻った私は、疲れていたこともあり、すぐに眠りに落ちた。
全く初日から大変な旅になってしまった・・・。
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