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インド旅行記
2003年1月・記
番外編 まさに戦場!インド列車

ヴァラナシ鉄道駅構内

ヴァラナシ2日目。俺は、デリー-アーグラー間の列車の切符を買うため、ヴァラナシの鉄道駅にいた。ここにもデリーと同じように「外国人専用切符売り場」があるのだが、これが怪しい。朝8時頃行ったが、ガランとしたその部屋には誰もいない。しばらく待っていると、係員が一人やってきた。
「デリーとアーグラー間の2等切符を買いたいんだけど。」
彼は、無言のまま1台のパソコンを操り、空席のある列車名を探してくれた。それにしてもそのパソコンは古くさいし、プリンタは両側に穴の開いている昔ながらの用紙を使う旧式のもの。
(これで本当に取れてるのかな〜?ちゃんとネットワークつながってる?)
と内心不安になりながらも、何とか往復とも空席のある列車があり、席を確保できた。旧式のプリンタから、ガタガタとチケットが発券される。
「往復で242ルピー(約605円)だ。」
俺が金を出すと、
「細かい小銭がないので、釣りをあげられない。」
と言うではないか。
「いや、そんなこと言われても細かいのないんだし・・・。」
(まさかこんなんで買えなくなるわけじゃねえだろうな?)と一瞬思ったが、彼は自分のポケットを探り、持っているありったけの小銭を机の上にかきだした。だがそれでも私に渡すべき釣りに1ルピー(2.5円)足りなかった。どっかに両替に行くのも面倒くさいし、1ルピーくらいはしょうがないからくれてやるか、と思い返し、
「1ルピー足りないんなら、いいよ、これで。」
と言って珍しく妥協した。

ニューデリー駅 外の様子

そして、ヴァラナシからデリーへ戻り、列車でアーグラーへ向かう日。ニューデリー鉄道駅前のロータリーで、俺は写真やビデオを撮っていた。すると、ある中年の肥えたオヤジが声をかけてきた。
「どこから来たんだ?」
「日本だよ。」
「これから電車でどこか行くのか?」
「ああ、アーグラーに行く。」
「インドシルクをお土産にどうだ?私は店を経営してるんだ。」
(商売人か・・・、やっぱり。)と思いつつ、
「いらないよ。」
だが一向に奴は離れる気配がない。しばらく雑談をした後、奴はこんなことを言ってきた。
「ここは駅だから、あんまり写真とかビデオを撮らない方がいい。」
「駅の構内じゃないんだからいいだろう?」
とかわして俺はしばらく撮り続けていた。奴はまだ俺のそばにいた。すると突然、別のオヤジが血相を変えて俺にイチャモンをつけてきた。
「お前、何をしている?」
「いや、ビデオ撮ってんだけど・・・。」
「ここは撮影禁止だ。お前ちょっとポリスステーションまで来い。」
と言って奴は俺の腕をつかんでどこかに連行しようとした。
(こいつが警官?)一瞬俺はひるんだが、奴の服装をよくよく見ると、普通のセーターに普通のズボン、どこからどう見ても普通のオヤジである。まかり間違っても警察官には見えない。
すぐに俺は、このオヤジと、いまだに俺の横にいて今知らん顔をしている初めのオヤジがグルであることを悟った。あまりにもグッド・タイミングだ。始めのオヤジが撮影のことを注意してから、ものの数分しか経っていないのである。ミエミエの連係プレイ。(そんな茶番に引っかかる俺じゃねぇ!)と俺は警官を装うオヤジに対し、一気に声を荒げた。
「何すんだ、放せよ!」
俺は奴の腕を振り払って、つかつかと駅構内に向かって歩き始めた。本当の警官なら、そんな態度を許すはずはない。だが奴は、俺を黙って見送るだけだった。
「まさかこんな方法でどっかに連れて行かれて大金巻上げられちまう日本人がいるのかな?」
と考えると、はらわたが煮えくり返る思いだ。

危険なのは駅の外だけではない。駅構内でも気は抜けない。多くの人々がごった返す駅の構内で、列車番号と始発駅・終着駅、発着時間が表示された大きなボードを見ていると、色々なインド人が声をかけてくる。
「どこ行くんだ?」
「アーグラー。」
「何時の列車?」
「11時。」
「それなら遅れてる。」
確かに、ボードを見ると、俺が乗る予定の列車に「Delayed(遅延)」の表示がある。到着予定時間も書いていない。
「この列車は、北から来るんだが、その辺りはこの時期いつも霧が出るから、列車が遅れるんだ。」
「なるほど。そりゃもっともな理由だ。」
(そうか。まぁ、『インドの列車は時間通りに来ることはない』って言うし、しばらく待つか。)とか考えていると、男はこう言うのだ。
「もうこの列車はキャンセルだよ、きっと。だからアーグラーまで、バスか車でしか行けない。俺が車で連れて行ってやる。どうだ?」
(そうきたか・・・・。)
「いや、待ってみるよ。」

また別の男は、「11時の列車はいつ来るか分からないから、11:30発の列車に切符を換えた方がいい。」と忠告してきた。試しにその可能性を探ってみるか、と思い、外国人専用窓口で、切符を換えられるかを聞いたところ、列車をチェンジするには、一度今持っている切符をキャンセルした後、もう一度買いなおさなければならない、とのこと。もし満席で取れなかったらシャレにならんので、列車を変えることは断念した。

そんな感じで声をかけてくる奴らが一体何人いたろう?中には、「俺は商売人じゃない、駅の清掃員だ。」という奴もいた。実際にそうだったのかもしれないが、もう俺は誰も信用する気はなかった。もうこの頃には、何時の列車でどこに行くのかも決して人には教えなかった。教えれば、奴らはあの手この手のウソをついて彼らの用意するボッタクリの旅へと招待しようとするのである。(もちろん、純粋に親切心から、旅行者に情報を提供しようとしているだけの人もいたかもしれないが。)
「誰か制服でも着てる奴はいねぇのかよ?駅員だったら普通制服じゃん。」
しかし、信用できそうな服を着ている人間はいない。唯一、軍服を着て銃を持った軍人が数人構内にいたが、彼らは駅員ではないし、ほとんど英語を話せない。

ホームで待つこと2時間。チャイで何とか時間をつぶす。ようやく俺が乗る予定のアーグラー方面へ向かう列車が、1時間半遅れでデリーに到着した。だが、この後もまた戦争は続く。
ホームに停止した列車から、大量の人々が、巨大な荷物と共に降りてくる。だが、乗り込もうとする人達は、降りる人達を待とうともせず、強引に列車の中に突っ込んでいく。降りる人と乗る人との、まさにラグビー試合さながらの肉弾戦。俺も、こうでもしないと電車が出発してしまうのかと思い、覚悟を決めて乗り込もうとすると、後ろから大きな声が。ヒンディー語だったので分からなかったが、どうやら「降りる人が先だ!」という声が飛んだようである。乗り込もうとしている人々の動きが止まる。そして降りる人達が続々と降りてくる。その手には、二つ三つと巨大なバッグが抱えられている。
いよいよ列車に乗り込む。降りる人はみんな降りたが、乗る人達で再び列車の入り口付近は『おしくらまんじゅう地獄』と化す。どいつもこいつも荷物が異常に大きい。
(お前ら、何でそんなに荷物がバカデカイんだよ?)とサマーズ三村ばりの突っ込みを内心入れつつ、人と荷物につぶされながら車内へと進む。通路も人と荷物で一杯だ。とても奥深くまでは入れそうにない。だが、不幸なことに、俺の席(指定)は、まだまだ先である。

そうこうしているうちに列車はゆっくりと動き始めた。しばらくしてようやく車内も落ち着きを取り戻し、私も自分の席にたどり着くことができた。幸い、俺の席は誰にも占有されずに空いていた(話では、チケットを持っていないインド人がよく空いている席を占拠しているそうである)。
「電車に乗り込む」という作業だけで、今日一日分の体力を使い果たした感じだ。まさにインドの列車は戦争である。

こうして、アーグラーへの電車の旅が始まった。3人×3人の向かい合わせ6人掛けの2等車両で、俺、ドイツ人カップル、パキスタン人家族の6人が座った。

アーグラーからデリーへの帰りも、列車は1時間以上遅れてやって来た。これでもまだいい方らしい。3時間5時間は当たり前らしいのだ。インドで列車移動の時は、絶対にタイトなスケジュールを組んではならない。

電車に乗っていると、色々な人達が通路を通ってゆく。「チャイ!チャイ!」と声を張り上げる、やかんを持ったチャイ売りのおじさん。靴磨きの少年。そして、物乞いの人達。両足、片足がなくて床を這ってくる人、幼い子供を抱いたおばあさん、修行僧風の髪を伸ばしたおじいさん。物乞いにも様々な人々がいる。
(彼らはどうやってこの列車に乗ったのかな?切符なんて買ってないだろうし、電車にずっと住んでいるのかもしれない。電車に乗っている旅行客専用の物乞いかな?駅では、ボロ雑巾のようにホームで寝ているホームレスの人もたくさんいたし。何だかんだ言っても、駅という所は旅行者が集まる、物乞いにとってはいい場所なのかもしれない。)
そして、床掃除の少年が、一生懸命に私達の座席の下のゴミをかき集め、きれいにする。掃除が終わると、金を要求してくる。俺と、私の横のおじさんが、いくばくかのお金を少年に渡した。彼の掃除ぶりは見事だった。

薄汚れた車窓から見える風景は、緑豊か。時折見えるスラム的居住区は、さながら難民キャンプのよう。インド底辺の貧困が見え隠れする。
そして途上国ならでは、車窓から平気でゴミを投げ捨てるインド人乗客たち。全く情けない。だが、昔の日本もきっとこうだったんだろうと思うと、仕方なしか。

電車に乗るだけでもそのようなインド社会の縮図を垣間見ることができる。

【インド旅行記 1011エピローグ (番外編:インド列車)】

                                             
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